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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)5987号 判決

日本勧業銀行

事実

原告は、被告が原告宛振り出した額面五十万円の約束手形三通と引換に、被告に対し金百五十万円を貸しつけたが、これに対する利息は月三分で前払とし、毎月被告が日本勧業銀行小伝馬町支店の三年積立定期預金(額面百万円と五十万円との二口で、掛金合計は毎月三万八千五百五十円)及び普通預金(毎月の預入額六千四百五十円)とに分割預け入れ、その都度被告は原告に対し一ヵ月分の利息相当額四万五千円の預り証を発行して右約定利息の現金支払に代えることと約定した。右約旨に基き、被告は原告に対し昭和二十八年十二月分から昭和三十年九月分まで、二十二回に亘り合計金九十九万円の預り証を交付し、これによつて被告は原告に対し毎月の約定利息の支払を完了したこととなり、爾後は預け金を原告に代つて保管していたことになるのであるが、被告は原告の昭和三十年九月以降再三の催告にも拘らず右預け金の弁済をしない。よつて原告は被告に対し右預け金及びこれに対する完済までの遅延損害金の支払を求めると述べた。

被告は、原告主張の毎月四万五千円の預け金は預り金百五十万円に対する月三分の利息であつて、右利息を預り金名義として被告から原告に対し預り証を交付していたものであるが、利息制限法所定の利率を超過した利息を目的とした準消費貸借は無効であるこというまでもなく、消費寄託には消費貸借の規定が準用されるから、準消費寄託たる本件九十九万円の預け金も亦無効である。従つて被告に右九十九万円の支払義務はないと述べた。

理由

証拠を綜合すれば次の事実が認められる。すなわち、被告は昭和二十八年十二月一日原告から金百五十万円を返済期昭和三十一年十二月一日、利息月三分毎月一日先払の約で借り受けたが、原告と被告との間で右利息に関し、被告は金二万五千七百円をその長男名義で額面金百万円の三年間積立定期預金として、金一万二千八百五十円を被告の兄名義をもつて額面金五十万円の三年間積立定期預金として、金六千四百五十円を被告名義で普通預金として(以上合計金四万五千円)いずれも日本勧業銀行小伝馬町支店に預金すること、その預金の都度被告は原告に預金証書を示すと共に、右預金額四万五千円に相当する金額の預り証を差し入れること、預金にはいずれも被告所有の印章を使用し、その印章及び預金証書は被告が保管し、右貸金の返済期であると同時に右定期積立預金の満期である昭和三十一年十二月一日に預金証書及び印章を原告に交付すること、以上のような契約をした。この契約に基いて、被告が昭和二十八年十二月一日から昭和三十年九月一日までに預金した額は合計金九十九万円となつた。以上のとおり認められるのであつて、その他右認定に反する証拠はない。

ところで、消費貸借上の債務者が利息に相当する金員を債権者名義で債権者の印章を使用して銀行預金し、その預金証書を債権者に交付したような場合、または債務者が利息に相当する金員を債務者名義で銀行預金し、その預金証書及び預金の受領に必要な債務者の印章を債権者に交付し、且つ債権者がその預金の支払を受けたような場合においては、利息債務は弁済によつて消滅したものと認むべきであろうが、これに反し、債務者が利息相当額を債務者名義をもつて銀行預金し、その証書及び預金受領に必要な印章を債務者において一定期限まで保管することを約したことによつては、利息債務は弁済によつて消滅したとみることはできない。そして、前段認定の事実によれば、被告は、定期預金の満期たる昭和三十一年十二月一日までは右預金契約を解約し、或いはその返還を受けてこれを自由に消費できたのであり、一方原告は、右期間内は右預金債権を自由に処分することはできず、また被告に対し右預金証書やその受領に必要な印章の交付を請求する権利を有しなかつたものと認める外はない。従つて、原告主張のように、これによつて利息債務が弁済によつて消滅し、被告が原告から改めてその金員の寄託を受けたものと認めるのは相当でなく、結局被告は原告に対し毎月金四万五千円の利息支払債務を負担していたところ、原告と被告との間において、右金員を消費寄託の目的として、その期間を各預金の日から昭和三十一年十二月一日までとする準消費寄託が成立したものと認めるのが相当である。しかして利息制限法所定の制限利息を超過する利息について準消費寄託を約しても無効であり、元金百五十万円に対する一ヵ月の制限利息が金一万二千五百円であることは計算上明らかであるから、右金九十九万円のうち金二十七万五千円については利息制限法制限内の利息の準消費寄託として有効であるが、これを超える金七十一万五千円についてなされた準消費寄託は無効である。

従つて原告の請求は右金二十七万五千円並びにこれに対する完済まで年五分の割合による金員の支払を求める限度において正当であるとしてこれを認容し、その余の請求はこれを棄却した。

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